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第1章 年の離れた従兄 第6話

Author: 花宮守
last update publish date: 2025-02-13 00:00:53

 夢を見た。

 暗くて寒い。誰かが私の肩を強くつかんだ。恐怖が背筋を駆け抜ける。駄目。叫んではいけない。嫌悪と絶望と、覚悟。唇を強く噛んだ時、大きな音と怒号が響いて――凄まじい咆哮。意識が白く染まっていく……。

「リン」

「……あ」

 温かい声が私をくるむ。夏の布団の上に突っ伏して、その一部をぎゅっと握り締めて眠っていた。肩にふわりと掛けられたのは、紫色のブランケット。

「晧司さん……」

「指を噛んではいけないな。傷になる」

 言われて気付いた。私は、おそらくは夢の中の恐怖に堪えるため、自分の人差し指を強く噛んでいた。歯型が付くほどに。

「怖い夢を見たのかな」

 私の手を大きな手で包み、ブランケットごと抱き起こすと、彼は目尻の涙を拭ってくれた。

「はい……怖かったっ……」

 誰がいたのか、どこにいたのかはわからない。ただ、恐ろしかった。晧司さんに抱き寄せられ、胸に縋って泣き、ようやく安全な現実を認識した。

「勝手に入ってきてすまなかった。様子を見にきたんだが、気配が気になってね」

「いいんです……」

 しっかりとつかまえていてくれる手。髪を撫でて、何度も「大丈夫だ」と言ってくれる。

「晧司さんっ……」

 あれが記憶の一部なのだとしたら、思い出したくない。ただの夢であってほしい。

「大丈夫だ。君は勇敢でまっすぐで、美しい。何者も、君が君らしく生きるのを止めることはできない……」

「私、らしく……」

「ああ、そうだ」

 涙が引いていく。鼓動が、通常の速さに戻ってきた。

「晧司さんは……私らしい私を知っているの?」

「そのつもりだ。尤も、よく驚かされたものだが……それも含めて、君らしいと思っているよ」

 私にとって、記憶の手掛かりとなる言葉だ。入院のきっかけは、事故だと聞いている。外傷はほとんどなかったから、深い眠りは、ショックを受けた心身を回復させるためのものだったというのが、お医者様の結論。事故の内容は伏せられている。

 夢で私は、怖くてたまらないのに助けを求めなかった。何か、やらなくてはならないことがあった……? その方法か、目的が、晧司さんでさえも驚かせるようなものだった……? ううん、待って。そもそも彼は、私の事故の原因を知っているの? 従妹が病院に運ばれたからと、急に呼び出されただけかもしれない。ここは別荘。私は、もともと彼がどこに住んでいたのかも知らない。

 あなたは、誰?

 天霧晧司。父方の従兄。それ以外に、どんな関係があるの? 関係が、あってほしいと……私は、願っている? ぐるぐると、考えてしまう。答えを知る勇気もないのに。

「……春日と明吉が来る時間だ。よかったら、顔を見せてやってくれ」

 晧司さんの指が髪を梳く。二人の名前が出て、心の暗雲が晴れていった。

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